涸沼の恵みを未来へとつなぐ「手掻き」のシジミ漁 Webマガジンいばらきの地魚市場vol.11

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潮と風と人、自然とともにある涸沼のシジミ漁

涸沼のシジミが高品質な理由

7月上旬の朝6時半、涸沼川に近づくと朝もやの中を「ブーン」というエンジン音が聞こえてくる。7時の操業開始と同時にシジミ漁を行うために漁場へ向かうシジミ漁師たちである。人が3~4人も乗れば一杯になってしまうような細長い船で競いあうように走っていく。

今回取材でお世話になった高野さんは今年38歳。シジミ漁師のなかでは若手である。25歳の時にお祖父さんから勧められてシジミ漁の世界に飛び込んだという。漁場はその日の潮や風の状況、前日までの漁模様などを考慮してベストと考える場所を選ぶそうで、「今日は涸沼の方に行ってみます」と言うと、すぐに漁場へと船を走らせた。

指定された場所に行ってみると、「ゆっさ、ゆっさ」と船を小刻みに揺らし、手に持った漁具を操る高野さんをすぐに見つけることができた。涸沼ではシジミの資源を守るため、全ての漁師が動力を用いない「手掻き」で漁を行っており、全国的にも珍しい。使用する漁具は「カッター」と呼ばれる刃爪のついた金属製のカゴに5~6mほどの長竿(*)を付けたもので、竿を操りシジミを捕獲する。高野さんはしばらくリズミカルに竿を振ると、ゆっくりとカゴを引き揚げて、水面付近で「じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ」とシジミを洗い、さっと船上のプラスチックカゴに取り込んだ。そして再び漁具を水中に戻すと、再び掻き始める。これを何度も繰り返す。

「昨日は風があったからよかったけれど、今日はないから大変ですね」と高野さん。動力を使わない分、涸沼では風と潮の流れを利用して漁を行う。最も条件が良いのが風と潮の方向が一緒の時で、流れてくる方向を背にして漁をする。風と潮が逆方向の場合は強い方を背にする。最も大変なのがどちらも弱い時だが、こんな時でも足で船を揺らし、船縁で支えた竿を船の復元力とテコの原理で動かしてシジミを獲る。「手掻き操業」は動力を使う漁法に比べて労力は格段にかかるものの大きな利点がある。それはシジミに余分な負担を掛けないため、傷の少ない、日持ちするシジミが獲れることである。涸沼のシジミが高品質な理由は丁寧にシジミを漁獲できる「手掻き操業」にある。

*浅場を掻く時は短く切ったものを使用したり、涸沼川などのより深い場所で操業する時は竿を継ぎ足して10mもの竿を使用することもある。

涸沼は全国有数のシジミ漁場。全国的にも珍しい、機械を使わない手掻き操業で獲るシジミは、キズが少なく日持ちするのが特長。

これは食べたい!

だしと旨味がすこぶる濃厚、涸沼のシジミ

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